英語で「玉の輿」は何て言うんでしょう?
日本のニュアンスが強すぎ感がありますが、英語ってあるもんなんでしょうか?
翻訳家さんに聞いてみました。
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英語でなんて言う? 恋愛ネタ編を翻訳家さんが解説
英語で「玉の輿」はなんて言うんだろう?
英語では、
と言います。
gold の鉱脈を dig する人だから、gold diggerです。
dig は掘るです。
この表現、ついつい1849年ごろにあった「ゴールド・ラッシュ」の人たちをイメージしてしまいますが、この単語が初めて活字として登場したのは、1816年ごろらしいです。
初めは、単に「金鉱を掘る人」という意味でした。
つまり、当然のことながら、ゴールド・ラッシュ以前にも、この手の山師がわんさといたわけです。
ただ、「お金目当てにお金持ちと結婚する女性」という意味で女性に限定すると、使われるようになったのは、記録では1915年ですから、ゴールド・ラッシュよりずっと後のことのようです。
それ以前にもこの手の現象は、当然あったのでしょうが、言葉として定着するには時間もかかりますからね。
こういうお金目当ての状況は、洋の東西を問わないようで、日本でも「玉の輿に乗る」というフレーズとして今も生きているというわけです。
肝心なこの英語の使い方
日本語のスラング的な決まり文句を英語では何と表現するんだという時、gold digger のようにいつも決まって相似をなす名詞とは限らず、動詞で表現することができます。
動詞の言い方のほうが普通というケースだってあります。
日本人は、たとえば、「玉の輿」という名詞形には、英語の名詞形があるはずと考えがちです。
では、名詞形と動詞形を一つの文で解決してしまいましょう。
アリスは玉の輿に乗ったんだよ。だって、金持ちと結婚したんだから。
と、この一文で両方が言えます。
wealth は富。
つまり、結婚して、お金持ちの世界へ突入したということです。
後半の部分は、
とも言えます。
紫色 purple は、映画の『ラスト・エンペラー』でも確かそうでしたし、中国でも皇帝の高貴な色で、ヨーロッパでも皇帝の色です。
中学時代に「the + 形容詞 = 形容詞な人々(集合名詞)」になるという公式を習いましたよね。
結婚 marry して、高貴な~リッチな世界に into する(入る)というわけです。
ちなみに、
結婚してくれる?
と、普通、marry は me を目的語にとる他動詞として使うことが多いですが、marry into..は目的語がなくて、いきなり前置詞が来てるんで、ここは目的語のない自動詞というわけです。
英語で「逆玉」はなんて言うんだろう?
あ、ついでに、玉の輿が出てきたので、俗世間でよく言う「逆玉の輿」、「逆玉」もついでにやってつけておきましょう。
これも「結婚する」の他動詞形でさばくと、あっけなく表現できます。
たとえば、「太郎は逆玉に乗ったな」というふうにしたければ、
Taro married into the rich.
どちらでもオッケーです。
この二つの文を重ねると、もっと分かりやすいでしょう。
という流れです。
つまり、逆玉ですね。
後のほうの文では、「the+形容詞=形容詞な名詞」の公式が使えて、
というわけですから、太郎は結婚して、金持ちの世界に突入 into したと言えるわけです。
どうでしょう、これで「玉の輿」の世界にマインドを into していただけたでしょうか。
「玉の輿」って、なんで玉の輿なんだろう?
そもそも、日本語の「玉の輿」って、どういう流れでこういう言い方になったんでしょうか?
「この間、結婚した彼女だけど、みごとに玉の輿に乗ったわね」
主に女性の結婚に関して、大いにやっかみをこめて、お金持ちと結婚した時によく聞くフレーズですよね。
よく聞くのに、「玉の輿」ってこういうもんだって、きっちり言えない自分がいたりします。
そうなると、この言葉探偵、日本文化についても掘り下げてたくなってしまいます。
何か出てきそうな感じですしね。
英語のことだけでなく、日本の文化も深掘りしたら、一石二鳥じゃないですか。
玉の輿となると、どうしても gold digger じゃないですけど、そこのところを dig せざるを得ないです。
ちょっと気になるんで、日本語自体のほうもこの際、ついでに深く掘ってみましょう。
まずは漢字そのもの読み
ところで、「玉の輿」の「輿」って、漢字の読みがすぐ出てきましたか。
「玉の・・・」があるから、まだ流れで読めると思いますが、ちょっと、この「輿」という言葉の深掘りもしてみようじゃありませんか。
まずは漢字ですが、玉の輿の「輿」は、興味の「興」に似てるからって、「たまの興」でも、「与」の旧漢字も「與」と書いて、似てるからといって、「たまの与」でもありませんからね。
輿という字の、漢字のビジュアルからして、おみこしのような字の、上の真ん中にある部分は、よく見ると、「同」ではなく、「車」です。
言うまでもなく、玉の輿は、「たまのこし」と読みます。
「玉のこし」ってひらがな混じりで書いてしまうと、「玉残し」とか、「玉のお越し」と読み違いをする人もないとは言えません。
日本語は、漢字の読みもむずかしいですが、ひらがなが続くと、漢字より読みにくいことありますね。
友達が血糖値の話をしていまして。
それが「数パーセント」上がったとか、下がったとか言ってまして。
話がよく聞こえなていなかった相手の友達が、健康に関する話題だと思ったらしく「スーパー銭湯って?」と聞き返したのが大うけで、みんなで、5分くらい、ゴーゴー鼻を鳴らして笑ったことがあります。
「数パーセント」を「スーパー銭湯」と聞き違えたわけですが、まあ、よく似てますよね。
無理もないです。
これは、読み違いじゃなくて、聞き間違えの話ですけどね。
玉の輿の深掘り
玉の輿の話でしたね。
「たまのお越し」の英語なら、rare visitで、背景もくそもなくて、そっけないんです。
ただ、「玉の輿」の英語の場合は背後にゴールド・ラッシュがからんできますから、ゴージャスです。
おみこしへの旅路
輿というのは、お祭りで繰り出す「おみこし」をイメージすると、分かりやすいです。
汗臭い男どもが、みんなで二本の柱を肩でかつぎ、一日やってると、肩の皮がすりむけるとか言って、実際にやった人がボヤくのをよく聞きます。
あの、二本の柱を、むずかしい漢字で轅と書き、「ながえ」と読むのはご存知でしたか?
要するに、輿というのは、人を乗せる屋形の下に2本の轅(ながえ)をつけた乗り物のことで、「おみこし」って、漢字で書くと、正式には神輿と書くんです。
読みは「じんよ」ではなく、「しんよ」です。
なあんだ、ふたを開けてみれば、輿は与の訓読みと同じ「よ」でしたね。
二種類の輿
その神輿のほうではなく、そもそも、ただの輿というのは、これが調べるとなかなか深いんですけど、短めに、難しい言葉ははしょって、ざっくり行きますね。
輿には二種類のタイプがあって、
①肩でかつぐタイプ
②手で持って腰のあたりで持つタイプ
の二種類があったそうです。
この①のタイプの始まりは、屋根のてっぺんに鳳凰を乗せ、天皇とか皇太子しか乗ることができなかった超近づきがたいタイプで、これが後のおみこしの原型になるわけです。
そう言われてみれば、おみこしのてっぺんに鳳凰が載せてあるの、よく見かけますよね。
一方、②のタイプは、天皇が内裏(だいり)の中での移動とか、火事なんかの緊急に使われる略式タイプで、後に僧侶やお公家さんが牛車に替わって乗るようになったそうです。
輿の平民化
もうちょっと我慢してください。
つまり、輿は天皇や貴族、江戸時代になると大名など、やんごとなきお方かお偉いさんしか乗れない移動手段だったわけです。
それが、後々、だんだん庶民化してきて使える人が増えます。
一部の景気のいい社長さんしか使えなかった携帯電話が、徐々に普及する感じですかね?
婚礼があった時に、奥さんの実家から近々だんなさんになる人の家に、この輿に乗せて運ぶ風習があったんで、「輿入れ」と言うようになったというわけです。
時代劇なんかで、結婚のこと、輿入れっていうの、よく聞きますもんね。
じゃあ、なんで玉なのよ
玉は、お玉という女性の説があります。
まあ、いろんな説があるんですが、江戸時代、八百屋の娘として生まれたお玉が、三代将軍家光の側室になって、あの、生類憐みの令で有名な綱吉を産んだから「玉の輿」と言うんだという説が一つ。
でも、これは俗説だそうで、本当は、家光に見初められたのはその通りなんですが、舞台を西陣に移してください。
身分の低い京都の西陣の八百屋の娘だったお玉が、まさかいきなり将軍と結ばれるというのにはちょっと無理があるので、いったん、格も高く、由緒もある西陣の大店(おおだな)にお玉は養女に出され、そこから江戸まで輿に乗って嫁いだから、玉の輿と言うようになったというのがどうも真相のようです。
玉の輿 wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%89%E3%81%AE%E8%BC%BF
「お玉の輿」 → 「玉の輿」なわけです。
玉は、宝石類を意味することもあるんで、玉の輿は、豪華なおみこしだと思ってた人も多いんじゃないでしょうか?
玉の輿という一つの言葉で、まさか「ゴールド・ラッシュ」から「お犬様」で有名な徳川綱吉まで出てくるとはね。
まさに徳川の埋蔵金、文化の金脈、まさにここりありというお話でした。
今回は英語からの…でした
というわけで、今回はたまたま日本語の俗語から、一回英語を介して、再び日本語の古い文化にも再突入できたというわけです。
ではでは、また、お会いすることにいたしましょう。
「たまのお越し」をお待ちしております。
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