迎え酒って英語、あるかどうかなんて考えたこともありませんでした。
二日酔いの翻訳家さんが教えてくれました。
a hair of the dog
犬が出てきたので、酔っぱらってるのかと思いましたが、違いました。
「迎え酒」って、英語では何と言うの?
ズバリ、
と言います。
つまり、「例の犬の毛」ですね。
dog に the がついてますから、「例の犬」ってことになるんですが、「例の犬」って何でしょう?
実は、a hair of the dog の後には、元々、
っていう言葉がくっついていたのです。
youっていうのは、一般的な「人」を指す youです。
つまり、全体で「人を噛んだ例の犬の毛」ということです。
動詞の bit は「噛む」の bite の過去形にちゃんとなってます。
痛いですよね、特に前のとがった犬歯で噛まれると。
何もしてないのに、という但し書きはありませんが、何もしてないのに噛む犬というと、保健所がからんでくるのが相場で・・・
そう、鋭いあなたはもうお分かりですね。
はい、狂犬病です。
つまり、「狂犬病の犬の毛」ということです。
狂犬病
その昔、西洋では犬に噛まれると狂犬病になることが多かったようで、日本では今でも犬は狂犬病の注射をすることになってますよね。
でもね、狂犬病は犬に噛まれたからといって必ず感染するとは限りません。
実は、コウモリに噛まれて感染した症例もあるという話もあります。
現代ではあまり狂犬病にかかった話は聞きませんね。
現在の日本では症例数はないらしいですが、それでも毎年、世界中で5万人以上ものヒトが狂犬病で死亡していて、その90%以上がアジアなんだそうです。
クール・ジャパンということで世界中から観光客が来るので、日本人が感染しないとは限りません。
なので、予防注射はその水際作戦というわけです。
なんか狂犬病の話ばっかりで、迎え酒でも飲みたくなるといけないので、二日酔いの人はこれから先は読まないでくださいね。
そもそも二日酔いの人は、最初っから読んでないか。
「迎え酒」の深掘り
さて、そろそろ「迎え酒」の深掘りに入っていきましょう。
という言い方の底には、狂犬病の犬に噛まれた傷口に、噛んだ犬の毛を当ててたという民間療法があったようです。
根本にあるのは、日本でもよく言う「毒をもって毒を制す」という考え方です。
犬の毛から、「毒をもって毒を制す」の考えを絞りだしたので、少し上位概念に入ってきましたね。
それを酒に応用流用して、深酒した後24時間以内に、同じ酒を飲めば二日酔いが軽減されるという流れになったようです。
この「毒をもって毒を制す」的な考えは、少なくとも「医学の父」と言われる古代ギリシャの医者ヒポクラテスにまでさかのぼれるようで、ラテン語にも
という表現があります。
これはややこしいと怒られるといけないので、英語に直しておきましょう。
という考えで、前置詞が主語になってるので混乱してはいけません。
英語だって、ラテン語を「直訳する」こともあるんです。
つまり、
「似たようなものが、似たようなものを治す」
という、今も医学の世界では、ホメオパシーという言葉が残っていることからも立派な一つの考え方なのです。
たとえば、日本の草津温泉は、草が茂った浅瀬から来たんだな・・・なんて思っていたら大間違い。
草津温泉は、「くさいみず」の「み」が取れて、「くさず」という名前になったという話です。
温泉の水に最初に出会った人は、シンプルに「わつ、くさっ!」というわけです。
くさっツ温泉です。
「腹の虫」がおさまらないなど、病気の元となるのは人間の体内に虫がいるからだ、という「虫を起こす」という考え方が昔の日本にはあって、虫=毒という考えです。
その毒を制するには、「臭い水」がいいわけで、これこそ、ホメオパシーの考え方なわけです。
だから、温泉の名前には毒々しい名前が多いじゃないですか。
地獄谷だの、「熱い海=毒」の、熱海だの・・・
日本はある意味ホメオパシー国家だったとも言えますかね。
あー、そろそろ私も毒で毒を制したくなってきました。
仕事の後には、「気つけの一杯」がほしいというわけです。
ご心配なく、まだ飲んでませんから。
「気つけの一杯」が、「自分を上げてくれる一杯」とはうまいこと言うもんですね。
実は、ネイティブの間では、「迎え酒」のこと、実際には
↓ I need a hair of the dog.
とは、あまり言わないそうで、表現としてはあるんですけど、実際には使わない現実があるようです。
↑ I need a pick-me-up after work.
が一般的なようで、二日酔いじゃなくても、この表現は使えます。
いわゆる「景気づけの一杯」なんで。
ところで、「二日酔い」は英語で?
二日酔いは、英語で
と言います。
動詞の hang と over という副詞の合成語です。
ぶらんぶらんの hang に持ち越し感たっぷりの over を使って、名詞をでっち上げたというわけです。
二日酔いは、「宿酔い」と書くこともありますね。
この「宿」が、宿便じゃないですけど、残留感をかもしだしてます。
ついでにがんばれ
hangついでに、「がんばれ」という日本語に、
というフレーズを当てることがありますが、このフレーズは、ボクシングをイメージすると分かりやすいです。
ノックアウト寸前のボクサーがロープにぶら下がって、こらえてるイメージを浮かべてください。
「ぶらんぶらん」が hang で、in thereの「そこで」は「ロープで」です。
よく巷では、「がんばれ」に相当する英語はないなんて言われますが、「がんばれ」に相当する英語はなかったわけではないんですよ。
たとえば、
だって、立派ながんばれです。
あの戦前戦中の「特攻精神」的な、元々ないものを無理にひねりだして、無理無理感たっぷりの「がんばれ」は、日本人独特だという話です。
二日酔いで「迎え酒」
二日酔いの時の「迎え酒」に使いたければ、
と言えば、十分「迎え酒」になるわけです。
やれやれ、「迎え酒」の一言で、ギリシャの医学や温泉の話にまでなってしまいましたが、いよいよこれで「しまい」です。
では、最後に一言。
英和辞典で hangover を引くと、「二日酔い」とともに、「残留物」という意味が載っているかもしれません。
ただ、和英ではなく、英英辞典を引くと、こんなふうに書いてあるはずです。
① 二日酔い
② 先には立たぬ後悔
二日酔いになるたびに、この②の意味が、残留物のように頭にこびりつく、けだし名言ですね・・・
そんな時はぜひ「迎え」ましょうや!
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