英語で「乾杯」のマニアックな話を翻訳家さんがしてくれました

英語で乾杯のマニアック

英語で乾杯の表現がたくさんあるってことを翻訳家さんが話してくれたときに、マニアックな話をしてくれました。

いろいろ深くて、ほんとにマニアックでした。

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英語で乾杯のマニアックな二つの表現

マニアックな表現の両巨頭と言ってもいい、ちょっと変わった表現が、

A: Here’s mud in your eye !

B: Here’s looking at you !

です。

Bの Here’s looking at you ! という表現は、映画『カサブランカ』で有名になったフレーズです。

まずはこの有名どころからじっくり見ていくことにしましょう。

このセリフは、僕のおぼろげな記憶だと、往年の字幕翻訳の達人、高瀬鎮夫さんが「君の瞳に乾杯」という訳をつけて、俄然有名になったセリフです。

ただ、有名になったのは、名「訳」ということですから、日本だけなのかと思ったら、おっとどっこい、アメリカでもこのセリフは有名です。

おそらくかなり若い人を除いて、知らない人はいないだろうというぐらい有名なんですよ。

名訳中の名訳と言われてはいますが、そうでないというご指摘もあるようで、そのへんのところをちょっと検証してみましょうかね。

誤訳だという指摘とは…

映画監督の原田真人さんが、これは誤訳であって、ほんとに大ざっぱに言うと、

Here’s to looking at you.

の中の、Here’sの後ろに to が付いてないから、誤訳の元になったというのが根拠らしいのです。

『突入せよ! あさま山荘事件』(02)や日本アカデミー賞の最優秀監督と最優秀脚本賞を受賞した『日本のいちばん長い日』(15)などの作品でおなじみの原田さんは、在米期間も長く、ハリウッドで監督修行や英語のオリジナル脚本などの修行を積んだ方です。
アメリカから映画の情報を雑誌で発信していた根っからの映画好きの評論家でもあり、82年の『スター・ウォーズ』の公開時に英語字幕の監修を担当した人物です。

実は、ずい分昔にロサンゼルスをぶらぶらしていた放浪旅行の最中に、僕は原田さんのお宅に(じゃなくて、駐車場だったかなあ)お邪魔したことがありました。

その当時の原田さんが、英語でハリウッド向けの脚本を書いているというのを聞いて、すごい人だなあと思ったのを覚えてます。

それで、原田さんが、

「今、ある脚本を書いてるとこで、思いついたスラングがあってね。バカな奴のこと、butter ballって呼ぶのどうかな? 結構、いけてると思うんだけど…」

とか何とか言ってたのを、うっすらですが記憶に残ってますね。

さらに、原田さんは、ハリウッドでは新しいスラングを自分で作っていくぐらいの勢いがないとダメなんだよ、という持論を持ってまして、それは強烈に記憶に残ってますね。

それで、今、その butterball をスラング辞典で調べてみたら、「カフェテリアで二人分の席を陣取るような太ったやつのこと」って載ってたんで、ひょっとすると「バカな奴のこと」じゃなくて、「太った奴のこと」だったかもしれません。

原田さんが考えたのが、いつまにかスラングとして広まっていたのかもしれないですね。

映画『カサブランカ』の名訳の再検証

話を『カサブランカ』に戻しましょう。

ネイティブ、つまり、アメリカ人は Here’s looking at you.というセリフのこと、どう受け止めてるのか、やはり、気になります。

ということで、ネイティブの意見を中心に調べてみることにしました。

よく調べていくと、やはりこれは乾杯の時の導入部だという例証がいくつも出てきて、どうも『カサブランカ』以前からこの表現はあったということが分かってきました。

 

もちろん、『カサブランカ』の場合は、

Here’s looking at you, kid.

と、年上のハンフリー・ボガートがイングリッド・バーグマンを子供扱いして、

「俺は(親心的に)君を見てるんだからな」

というニュアンスの原田説にも一理はあります。

乾杯する際にそのニュアンスをこめたのかもしれないです。

その説の場合にも、この Here’s …は、ほとんど、I’m…的に使われていて、それだと文法的にも筋は通るし、そういうご意見とも受け取れますね。

原田さんは、この説派ということになります。

マーク・トウェインも使ってた乾杯の~ing形音頭

実は、Here’s looking at you. とよく似た

Here’s hoping.

という言い方があります。

ここから、I hope so.の感覚という、ネイティブの意見が参考になります。

Here’s ~ing.という言い方は、乾杯の音頭として「あり」だということなんです。

かのマーク・トウェインも、ゴールドラッシュ時代の酒場のエチケットのくだりで、乾杯の音頭として、

Here’s hoping you’ll strike it rich in the lower level.
地下のほうで(金鉱を見つけて)君が大当たりしますように乾杯

という一例を挙げてます。

これなんか、Here’s hoping のところを丸々 I hope (that) と置き換えたら、立派な文章になりますもんね。

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いつも~ing形ばかりじゃないよ

乾杯の音頭は、いつも~ing形ばかりではないようなのです。

それが、冒頭に挙げたAのパターンの、

Here’s mud in your eye.

なんです。

今出た、ゴールドラッシュ時代の乾杯フレーズの Here’s~ing の ~ing ところに、名詞の mud を持ってきても(「君の目に泥がありますように」という意味になり)、これは西部劇など、やや古めかしい立派な乾杯の音頭として、知る人ぞ知る表現ではあります。

なぜ泥なんでしょう?

これには二つの説があって、結論から言うと、競馬が起源らしいのです。

まず一つ目の説は、聖書で、キリストが盲人の目に泥を充てると、その盲人の目が見えるようになったという故事があって、それが由来だという説なんです。

これが一つ目です。

もう一つの説としては、僕はこっちの説を有力視しているんですけど、競馬説があるんです。

レースのゴール前で、先頭を走っている馬の蹴った泥が、後続馬の騎手の目に当たるという状態。先頭を走っている馬の馬主は、後続馬の騎手の目に泥が入って、自分の馬が逃げ切ることを願うという意味で、Here’s mud in your eye.というフレーズが生まれたという説なんです。

ただ、一つひっかかる問題が…

では、なぜ、
Here’s mud in your eye.

と言い、

Here’s mud in your eyes.

と、目が単数ではなく、複数にはならないのだろうか、という問題が残ります。

もちろん、mud(泥)は、数えようのない不可算名詞なので、初めから s は付きませんね。

ヒマな人は、泥を勘定してみてください。

間違いなく日が暮れますから。

 

ところが、目は普通は二つあるので、eyesですね。

二つ以上が複数なんで、最後に s が付きますよね。

ひょっとして、二番目にゴールした騎手は、少しでも前に行こうと、前のめりになっていたから、泥は片目にしか入らないんじゃないかという、うがった見方もできます。

でも、それはひねりすぎでしょう。

目のeyesはいつも複数とは限らない

特に、英語の熟語に「目」が出てくる時は、いつも eyes は複数とは限りません。

たとえば、

by eye
目分量で

とか、

That sign caught my eye.
あの看板が目に入った

なんていう時は、my eyesではないし、

My eye
ばかばかしい

という時のやや古めかしいつぶやきというのもあります。

「ってことは、Here’s mud in your eye.は決まった言い方だから、そのまま覚えればいいんだよね?」

と言われれば、その通りと答え、言われたほうはそれで納得するのが素直な姿勢です。

結局、ここは素直に考えたほうがよさそうな気配なんです。

第一、そのほうがスコンとシンプルに頭に入りやすいですもんね。

では、最後に読んでくれたみなさんの「勝利」と「成功」と「健康」を祈って、

君の瞳と泥に乾杯!

としゃれて、終わりましょうか。

では、Here’s mud in your eye !

最後に

というわけで、一口に乾杯と言っても、日本語ではたった二文字の乾杯ですが、以上のような深い事情があったんですね。

そりゃ、そうです。

世界中の人たちで一日、一体何億人が、何億回乾杯してることか!!

ほんとだったら、乾杯のフレーズは何億個あってもいいはずです。

ところが、そうはなってません。

わずかな乾杯の音頭のエリートたちが残っているだけです。

そういえば、国営放送の物知りの五才のチコちゃんの話によると、乾杯の時、カチーンとグラスを鳴らすのは、もともと「毒が盛られてないことを示すためだった」らしいのです。

でも、どうして毒杯とカチーンが関係あるのかは、僕はその回を観てなかったので分からなかったんですけどね。

「ボーッと生きてんじゃねえ!」って叱られそうですね。

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