英語で「背に腹はかえられない」を翻訳家がじっくり解説

英語で背に腹は代えられない

「背に腹はかえられない」という武士っぽい響き、英語でなんと言うのか翻訳家さんに聞いてみました。

あっさりな答えが、こってりしてました。

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「背に腹はかえられない」って、英語では何と言うの?

Must needs.

か、

Needs must.

ちょっと古い言い方になりますが、こうなります。

ええっ、何それ?って思うかもしれません。

だって、普通ですよ、must が来たら、その次には動詞の need が来るべきところ、まるで三単現のような s がくっついてくるところが怪しいです。

言い換えが needs の動詞部分が前に来て、助動詞が後に来るなんていう珍現象が起きてしまっています。

なんじゃ、それ?って思うのは無理もありません。

実は、これ、

シェークスピアの

『終わりよければ全てよし』(All’s Well That Ends Well)

という戯曲にも出てくるフレーズなんです。

「終わりよければ全てよし」ということわざはあまりにも有名です。

 

元ネタはシェークスピアらしい

そもそも All’s Well That Ends Well という戯曲のタイトルが、文法的にあれっと思うかもしれないので、そのへんをまず解説しておきましょう。

最初の needs must が、どうして「背に腹はかえられない」という意味になるのか?

これも説明が長くなりそうで、だいぶ時間がかかりそうなので、あとで必ずやりますから、少し我慢しててください。

さて、

All’s Well That Ends Well

ですが、すぐに文法的に納得できた方は、東大に今すぐ入れるような人だと思います。

そういう方は東大を志望校の視野に入れてもいいと思いますよ。

また、受験勉強をしてる方なら、真ん中にある that が関係代名詞だとしたら、先行詞はすぐ前の well なのか all なのか?と思うかもしれません。

この時の well は名詞の「井戸」ではなく、「よく」という意味の副詞です。

関係代「名詞」と言うぐらいですから、名詞しか眼中にない方はすぐに察しがつくと思います。

そう、先行詞は all「すべて」です。

なので、この文を文法的に分かりやすいように、組みなおしますと、以下のようになります。

タイトルは全部大文字で書くことになっているので、それはいったんやめて、普通の文とした場合です。

All that ends well is well.

つまり、「よく終わるものは、すべからく、よし」というのが直訳です。

ただ、この文は、意味は通じやすいのですが、well と well が近すぎて、読んでみると大変リズムが悪いです。

それに、主語の部分が長く、動詞のある述部が短すぎです。

文章が頭でっかちになるのを嫌う英語的には、大変ぶかっこうですね。

 

あまりいい文章とは言えませんが、

It is necessary that you brash your teeth after waking up in the morning.
人は朝起きたら、歯を磨く必要がある

って、歯医者のセリフですかね。

これを

That you brash your teeth after waking up in the morning is necessary.

なんて言ったら、英語的にはぶかっこうでしかたありません。

というわけで、やはり、最初の

All’s Well That Ends Well

のほうが、All’s Well でいったんリズムの区切りができます。

その休止から That Ends Wellと読むと、最初の well で小休止して、wellが最後にそろって韻を踏む脚韻のごとく、非常に耳に心地いいと思いませんか?

英語はあまりに主語が長いと、主語を説明してる部分を後ろに持ってくることはよくありますしね。

さすがは詩人でもあるシェークスピアです。

シェークスピアをわざわざ出さなくても、もっと簡単な言い方はないものかという方も多いかもしれません。

そう、確かに Must needs. という言い方は、かなり古臭い言い方ですから、映画ではあまり見たことはありませんね。

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一般的な英語の言い方

「背に腹はかえられない」とか「背に腹はかえられぬ」という言い方は、時代劇でも現代劇でも使えますよね。

もっと一般的な英語の言い方だと、

There is no (other) choice but to do something.

と言い換えられます。

直訳すれば、

「~すること以外に選択の余地はない」

つまり、「背に腹はかえられない」ということになります。

例えば、

「背に腹はかえられない。こっちに行くしかないな」

と言いたければ、

There is とか、その省略形である There’sは、言わなくても分かるので、

No choice but to go this way.

となるわけです。

あっさりした言い方になって、なんかさみしい感じがしてしまいますかね。

ちなみに、この but は前に否定形なんかがあると、「~以外に」という意味の except と同じ意味になることは知っておいたほうがいいですよ。

これは東大でなくても、大学受験の問題製作者が出題したくなりそうな、ちょっとマニアックな必須の知識です。

あるいは、There is だと一般論的なので、例えば I を主語に持ってきて、

I have no other choice but to call the police.

とやると、

「警察に電話せざるをえない」

という意味になります。

have no other choice but to~

という形で、~のところに動詞をもってくれば、「~せざるをえない」という熟語として使えます。

 

あるいは、

Who else but you!

などと言えば、

「君以外に、他の誰がいると言うんだ?」

と、動詞も使わず、商品のコピーに使えそうな意味として使えます。

「他の誰が、しかし君が」という意味ではありません。

否定形ばかりでなく、疑問形ともペアリングの相性がいいようですね。

Must needs. か Needs must.

さてさて、冒頭の「Must needs. か Needs must.」問題でしたね。

結論から言いますと、この needs というのは動詞ではなく、はっきり副詞です。

例えば、sometimes は、

ある some と

時 time に

s を最後にくっつけて、「ある時」という副詞になります。

 

alwaysも

al(all) + way + s で、「いつも」ですよね。

 

こういう名詞に s をくっつけて、副詞にしてしまう言い方が英語には時々あります。

どんな名詞でもというわけにはいきませんがね。

「毎週月曜日」を、Mondaysというわけにはいきません。

今の英語では、on Mondays と、前置詞をくっつけて、副詞っぽくしないといけません。

この名詞に s をくっつけて副詞にするやり方は、古い英語のなごりです。

昔、大学で英語学をちょっとかじった時に、具格か属格だか忘れましたが、名詞にいろんな格があった時期が存在していたようで。

そこから語形変化させていたころの名残りだと思われます。

ま、とにかく、この needs は動詞ではなく、副詞だと理解するといいでしょう。

で、

Must needs. か Needs mustの正式な言い方は、

Needs must when the devil drives.

でして、元のシェークスピア版だと、

He must needs go when the devil drives.

となっていて、

「悪魔に駆り立てられれば、嫌でもせざるをえない」、

つまり、「背に腹はかえられない」ということになるのです。

「悪魔に駆り立てられれば、とことん進むよりしかたがない」的な元の文の、主語だった He と本動詞の go がいつの間にか落ちてしまっています。

しかも、when以下も分かり切っているので落ちてしまい、最後にmust とneedsだけが残り、この二つのうち、どっちが前に来ても、察しはつくので、どっちでもよくなったのです。

副詞なら、極端に言えば、文章のどこにでも来られますしね。

なので、この言い方は、

(There is) No choice but to do something

のように、to以下をさしはさめる言い方ではなく、

I had to call the police. It’s like Needs must, you know?

「警察に電話するしかなかったんだよ。いわゆる背に腹はかえられなかったってやつだよ」

的に、前後にさしはさむ形で使えばいいわけです。

最後に日本語

あ、最後に日本語の「背に腹はかえられない」自体もついでに、ちょっとさらっておきましょうね。

要は、「背中を守るためとはいえ、大事な五臓六腑のおさまった腹をひきかえにはできない」というのが日本語の元の意味です。

その「背」を他人、「腹」を自分に見立て、「切羽詰まった時には、人の心配するどころではなく、自分のことで精一杯」というたとえにも使われているようですね。

そりゃあ、そうです。

悪魔に急き立てられたら、それこそ、「背に腹はかえられません」やね。

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